大山鳴動して鼠一匹
朝、暗~い声で奥様から電話があった。
「もしもし~、いるのよ」
「何が?」とオジサンが聴くと、
「黒い方のトラップの中でガサガサと音が聞こえる。ネズミが入っているのよ」
「お~良かったじゃないか、あれだけ大騒ぎしたネズミが捕まったんだから」とオジサンが言うと。
「どうするのよコレ」と奥様は聞くのである。
「どうするって殺処分するしかないでしょう。逃がしたらまた居付くし」
「まあ、水にそのまま沈めて水死か、そのままビニールに入れてゴミ箱に捨てるか」
とオジサンは自らの経験からそう答えた。
農家ではネズミ捕りは日常の仕事である。子供の頃大きな網状のかごの中に取れたネズミをそのまま川や、どぶに沈めていた。
ネズミ以外にも雀なども農作物を荒らすものは、お百姓さんの敵なのであった。
(お百姓的合理主義)
「だって、まだ小さいのよ。マウスよマウス」と奥様は言う。
長男君はラットとマウスの違いを説明してきた。さすが学生さんだ。
ラットはドブネズミ、マウスはハツカネズミで可愛いのである。
それにロスアンゼルスは日本の様に川やどぶが無いから殺処分に困る。
判断は奥さんと長男君に任せる事にした。
夕方、電話でどうなったかを聞いた。
ナント!近くの公園に持って行って放してあげたそうである。
「え~帰って来ちゃうよ。」とオジサンが言うと。
「だいじょうぶよ、ネズミの足には遠いから」奥様は言う。
長男君は「あとはコヨーテに任せたらいいんじゃない」と言う
さすがは学生さん、やさしいのか責任放棄か分からない。
2人で公園に行ってトラップの蓋を開けるとビヤ~と一目散で逃げて行き木の上に登って行ったそうである。
「コヨーテに気お付けろよ~、もう帰ってくるなよ」と言って公園をあとにした二人のスガスガシイ横顔を夕日が照らしていた。
こうして小ネズミ君は優しいのか根性が無いのか分からないオジサンの家族にその命を救われたのであった。
この一連の話を聞いて「鶴でも恩返しするんだから、ネズミも恩返ししなさい」とオジサンは思ったのであった。