旭ノ宮神社 憑依霊事件 その2
ハチ公前で彼の母親を見つけるのは容易であった。
友達や恋人をウキウキしながら待ち合わせしている人々に混じって、明らかに挙動不審な異常な形相のオバさんが一人いる。
彼に確認をしてから、決意して声をかけた。
ギロリと僕の顔を一瞥してから、突然「アッ、アンタは良い人だ!ワシには分かる」と叫んで僕の手を取って喜んでいる。
出刃庖丁で刺されると思っていたので少々拍子抜けしたが、明日の朝刊にのる様な惨事には至らずに済んだ訳だ。
そして男声で「ココでは話が出来ないので何処かに行こう。オイ そこの小僧!食事が出来る高級店を探せ!」と息子命令していた。
「お前達の様な貧乏人に高級な物を食べさせてやる」と言うのだ。
僕は「そんなに悪い憑依霊では無いな〜」と思ってしまった。
母親に小僧と命令されて彼は首を傾げながら道玄坂を上った所にある高級料亭に入った。
歩いている時も母親になったり男の霊になったりするので、ややっこしかった。
料亭に着くとドカと胡座かいて、男の霊の説教が始まった。
簡単に纏めれば、
ワシは越後旭ノ宮神社(仮名)の3代前の神主でスサノオノミコトの生まれ変わり(多分霊位の低い雑霊)。
この女の夫はロクデナシ(彼の父親ですね)
この小僧も小者でダメだ(自分の息子ね)。
お前(僕の事ね)は中々見込みが有る(ありがとうごさいます)。
だから二人とも弟子にしてやるから、これから一緒に越後旭ノ宮神社に行く、そこで一緒に修行のため山に篭れと言うのである。
この時も何度か霊が入れ替わるのでややっこしかったが、母親がトイレに立った時に出刃包丁をバックから抜き取って棄てた。
同時に僕の腹に巻いていたサラシの中の電話帳も棄てた。
さて、この神主の霊は「自分について来ないと、すぐ死ぬぞ!」と迫って来る。
僕が拒否すると益々大声で脅す。かと思うと母親になって泣き出す。
何とも異様な状態なので、隣の間にいた青山学院大の女子大生がチラチラこちらを見ながら「何アレ〜チョト変じゃない⁉︎ 死ぬとか叫んでる」と話し合っていた。
「ええ、変ですよわたし達は!」と心の中で思った。
そうこうしている内に、連絡していた父親が料亭にやって来て、何とかなだめながら彼と父親に連れられて新潟の実家に帰っていった。
1週間程して彼が実家から帰って来たので、その後どうなったかを聞いた。
その後母親は精神科の病院に入ったが逃げ出して例の神社に行ってしまったので、霊位が高い方にお祓いをしてもらって今は落ち着いているとの事であった。
オジサンが今から振り返って思うのは、人は知らずに案外いろんな霊に憑かれているかもしれない。
過食症、拒食症、キャンブル依存症、セックス依存症などなど自傷行為に走るのは精神的問題だけでなく、何らかの霊に憑かれているのでは思うのだ。
ビリーミリガンのような多重人格症のケースもいくつかの霊に憑かれていると考えた方が理解出来る。
共通する点は自分自身の心をしっかり持たないと、精神の不安定な状態に霊に憑かれる隙が生ずるようだ。
「しっかり生きる」って大変な事ですね。