砂漠の徒然草のブログ

ネバダで単身赴任、心の泉を求めて彷徨うワタシ。

そこに愛はあるのか!

テーブルマナー

昨日はラブレターの思い出を書いてしまったが、
奥様から「ついにラブレターまで出してきたか」と冷ややかに言われてしまった。


回想ついでだが、その時描いた「秋刀魚の開きと卵」の絵が(今考えれば随分地味題材である)ライオンズクラブの賞を取りまして、暫くするとライオンズクラブの表彰式を兼ねてランチに招待される事となった。


オジサンの学校は出来たばかりの新学校で、オジサンで2期生であった。
カナダ人のピエール校長は出来たての学校の名前が出るので、校長車で静岡市のとあるホテルまで送ってくださった。
オジサンは世間知らずの田舎者なので、何か変なことでもされたら学校の名前が下がると心配したのか、この表彰式の日が来るまで3回くらい校長室で表彰の受け方やテーブルマナーの練習をした。
よほど心配だったのか車の中でも食事マナーの注意点を口にしていた。


確か校長車はコロナ マークⅡだったと思った。我が家は農業用の小型トラックしかなかったので、その車の乗り心地は大変よかった。


突然ラジオから音楽が流れた。山口百恵の新曲「ひと夏の経験」であった。
「あ~なたに女の子の一番大切な、物をあげるわ~」と言う大変刺激的な曲だ。


純朴な青少年だったオジサンは「なんちゅう曲を歌うんねん!」と思った。
校長は聖職者なのでラジオのチャンネルを変えるだろうと思っていたが変えなかった。
日本語の曲の意味する事をあまり理解していなかったかもしれないが、校長が車中で色々話していたマナーの注意点は耳に入らず、「ひと夏の経験」の歌詞の意味する事が頭の中でぐるぐる回り頭が一杯だった。
男子校症候群であったオジサンにその曲はかなり衝撃的であった。


さて、ホテルの係り員に案内されて表彰式の会場に入ったが、既にランチは始まっていた。
渋滞で遅れたか、出るのおそかったか遅れたか覚えていないが、他の受賞者は席についてランチは半分ぐらい進んでいた。
遅れた時点で既にマナー違反の様な気がするが、ともあれ席について出された食事を頂いて行く。


見たことも無いキレイにデコレーションされたテーブルに、これまた見た事の無い素晴らしいお皿と輝くナイフ、フォーク、スプーンが並んでいる。
全てがコース料理なのである。1品1品を上品そうなウエーターが運んでくれる。
さすがはライオンズ クラブである。


前菜のサラダが出た。フォークを使って食べる奴だ。
箸しか使わないオジサンには扱いにくい物であった。しかし学校の名を汚してはいけないので緊張しながらも何とか上品に食べた。


他の受賞者の学生たちは最後のコーヒーを飲みながら偉い画家先生の受賞作品の解説を聞いている。一人だけ食べているのだから緊張に次ぐ緊張だ。


スープが出て来た。校長が「音をたてないで飲みなさい!」と言っていた奴だ。
しかし、スープ用のスプーンが見つからない。フォークもスプーンもイッパイありすぎて分からない。
緊張しすぎると周りが良く見えなくなることがある。
フォーク、スプーンは外側から料理に合わせておいてあるのだがパニックになって分からない。


何にしろ目に入った小さなスプーンを使ってナントかスープは飲み終えた。
ずいぶん小さいスプーンで何度も口に運ばなければならない、音を立てずに飲んでいたが何か違和感があった。
一つ向こうに座っている女学生がチラチラ見ている(あれは双葉の女学生だった)。
音を気にしすぎて飲むため小さなスプーンを口にはこぶ度に頭をへコへコ下げるので変な動きに見えたのだろう。
しかし最大の難関を乗り越えた。
ウエーターが一品終えるごとに食器を持って行ってしまう。


メインは肉料理だった。馴れないナイフとフォークを使いながら食べた。
ナカナカ切れない。ガチャガチャと音を立てると気になるのか、また女学生がこっちを見ている。オジサンしか食べていないのだから仕方が無い。


最後にデザートとコーヒが出て来た。
コーヒーは上品ではあったが非常に小さいカップであった。
偉い画家の先生が話しているのでなるべく静かに飲もうと思いながら、ミルクと砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜようとしたが、またスプーンが見当たらない。
今思えば混ぜるのをあきらめれば良かったのではと思うが、その時のオジサンは何故か諦めなかった。
よく見ると大きなスプーンがあった。しかしコヒーカップは口が小さく中に入らない。
そのスプーンはスープ用だったのである。
コヒー用のスプーンは最初のスープの時に使って持って行かれてしまった。


意固地になっていたのか、ミルクと砂糖を入れた高級そうなコヒーをどうしても飲みたかったのか覚えてはいないが、今ではブラックでしか飲まないコヒーも青少年時はミルクを入れないで飲む事はあり得なかった。


何故かって?
だってテレビで「クリープを入れないコヒーなんて...」と言う宣伝に青少年の頭は洗脳されていたのだった。
その時はスープ用のスプーンと気が付かず「なんでだろう?なんでだろう?何か特殊な方法があるのだろうか」と試行錯誤しながらガチャガチャやりはじめてしまった。
偉い画家の話などそっちのけだ。


そんな青少年のオジサンの方に顔を向け始めるのは、あの女学生のみならず3人4人と増え始めた。
見るに見かねたのか隣の頭の良さそうな学生が「そのスプーンを反対にしたらかき回せるよ」と教えてくれた。
オジサンは「この学生は天才に違いない!」と思った。


マナー違反かセーフだったか分からないがコヒーも飲み終わり、ランチのコースは全て終わった。滑稽な姿に映った事は間違えない。(学校の名誉は守られたのであろうか⁉)
緊張と焦りで食事の味は分からなかった。一生で一番疲れたランチであった。


食事中その偉い画家の先生がして下さったオジサンの絵の評価の内容だけは覚えている。
なんでこの絵が選ばれたのか分からないような顔をしながら「色使いは素晴らしいが、デッサン力をつける必要があります」と言われた。その通りだと思った。


会場を出るとピエール校長が待っていた。
学校に帰る車に中で「どうだったランチは?マナーの方は練習通りに出来たか?」と心配そうに聞いてきたが「ウン。わりと良かったよ」と答えはしたが、心は晴れ晴れとはしていなかった。負債感と疲れで沈黙が続いた。


「ああ~また、百恵ちゃんのアノ歌がラジオから流れれば、衝撃で思考停止になれるのにな~」とオジサンは思ったのであった。


今はアメリカで暮らしているのでデナーパーテーなどに招待される事はあるが、キレイなナイフとフォーク、そしてスプーンを見るとアノ時の事を思い出す。


もし機会があればライオンズクラブの方達に、「田舎の学生には中華料理か幕ノ内弁当の方が良いですよ。箸だけで済みますから」と伝えたい。

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